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オオサンショウウオ比較の図

筆者によるオオサンショウウオ比較の図。上から、在来種、交雑個体、外来種。茶色の地に黒い斑紋が出る在来種と、灰色~黒の地に薄い色の斑紋が抜ける外来種は容易に区別できるが、交雑個体の識別は難しい。図では、薄茶色の地に黒い斑点と地の色より薄い斑紋の両方が出る、比較的よく見られる典型的と思われるタイプの交雑個体を描いた。

 何故こんなにも交雑個体ばかりが増えてしまったのだろうか。その問いに対する答えは出ていないが、一因は交雑個体の活発さにあるのではないかと考えている。最初に紹介した個体のように、交雑個体の多くはどうやら活動性や攻撃性が高そうなのである。現時点では未発表だが、攻撃性を在来種や外来種と比較するために筆者が行った実験で、交雑個体が最も高い攻撃性をもつ傾向があるという結果が出ている。オオサンショウウオは雄間を中心として、特に繁殖期には激しく闘争することが知られており(栃本, 1995)、この闘争の際には時として他個体を咬み殺したり(栃本, 1995 ;土井, 2004)、共食い状態になったり(清水, 2008)することもある。また繁殖前後には巣穴を守るオス個体は、非繁殖個体であればメスであっても侵入者を攻撃することもあるため(桑原・中越, 2009)、攻撃性の高さは直接的ないしは間接的に、適応度に影響し得ると言えるだろう。こうして文字通り「強い」個体たちが勢力を伸ばしてきたのではないかと想像している。

 こうなってくると優先してやるべきことは、生き残っている在来種の探索とその保護にあるのではないか。日本の河川にとって交雑個体をこれ以上増やさないことも重要だが、京都の在来種を絶やさないようにするには、わずかに残されているであろう、それらの個体を救出するのが先決だろう。また、交雑個体を捕獲するにしても上流の繁殖可能な地域のものを先に捕るべきかもしれない。中流から下流域には良い巣穴になりそうな場所もほとんどなく、また捕獲される個体に繁殖闘争の傷跡もあまり見られない印象を受けるので、繁殖できていない可能性が高い。ただしこうした個体も他の地域に広がるのは阻止しておかなければならない。課題は山積みだ。

オオサンショウウオ調査

調査で捕獲した全ての個体は、尾から皮膚片を採取して遺伝子鑑定をおこなう。もちろん調査には国の許可が必須である

 最後に問いたい。さんざん問題だ深刻だと書いてきたが、悪いのは外来種や交雑個体だろうか?よく外来種問題などで外来種そのものが悪者みたいな扱いを受けているが、結局悪いのは人間で彼らに罪はない。外来種からしてみれば、たまたま分布の拡大に成功しただけだ。しかし、在来生態系や在来種を守りたい、守らなければという考えはよく解る。だからこそこうした問題は難しいし答えが出せない。どこかに妥協点を見つけるしかないのかもしれない。オオサンショウウオの場合、交雑個体は水族館での展示に出されたりしているし、人間本位な言い方をするようで嫌になるが研究に役立てることもできるだろう。もともと研究があまり進んでいない動物でもあり、法的制限もあって在来種ではやりにくい研究もある。実際交雑個体を使って解剖学的な研究や発信機を埋め込んでの追跡実験なども行われている。溢れかえった交雑個体も、オオサンショウウオ研究の進展のために使われるならただ隔離されたり殺されたりするよりは幾分かマシであろう。交雑個体に関わってきて、彼らにも彼らなりの魅力があると感じている。命を軽んじることなく、日本のオオサンショウウオに明るい未来があるように、切に願う。

著者紹介

浜中 京介 (はまなか きょうすけ)

兵庫県篠山市出身。京都大学理学部卒、同理学研究科修士2回生(執筆当時。現在博士課程)。幼少期から自然の中で遊び育ち、中学生の頃から爬虫両棲類学の道を志す。メインの研究テーマはマムシの食性や行動だが、ヘビやハンザキ以外にも興味の対象は広く、アシナシイモリやワニ等も好き。特技はカエル各種の鳴きまね。とにかくおもしろい研究がしたい。

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